『学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話』(産業編集センター)

 ちょっとした気合いを入れないと、美術館や博物館に行けない。企画展や常設展の内容はもちろん、美術館のある街には他にどんなお店や公園があるかを事前に調べ、どのようなルートで動くかを考えてから行く。ふらっと覗いてもよいはずなのに、どうしても構えてしまうところがある。どのように企画が生まれていて、学芸員はどうやって働いているのか、その営みを知ると、もう少し身近なものとして考えられるかもしれない。

 本書は、展覧会がどのように作られているのか、学芸員という仕事はどういうものなのか、美術館をもっと楽しむにはどうすればよいかの三部構成になっている。特に二部までは、企画の立て方や美術館で働く学芸員がどこに意識を向けているかがよくわかる。予算、図録、作品の配置の仕方、他の美術館との作品の貸し借り、運送、広報といった一連の流れを踏まえると、鑑賞する際の感度が高くなるように思う。

 おそらく気合を入れないと美術館に行けないのは、美術館のことを権威づけられた何かとして捉え過ぎているからだろう。どのように作品を見るかももちろん書かれているが、そこに関わる人たちの営みを知ることで、もう少し血の通ったものとして受け取れるようになった。美術館そのものを以前よりも楽しめるかもしれない。