パフパフー! 新規のお客様がいらっしゃいましたので、みなさんお酒を持ってくださーい。よろしいでしょうか? はい、今日もお疲れ様でした! かんぱーい!
休日、会社に置いていた本を取りに行った帰り、いずれ行きたいと思ってGoogle Mapにメモしていた立ち飲み屋に寄った。15時過ぎで、10人くらいでいっぱいになりそうな小さな店内は半分ほど埋まっていた。
注文のたびに支払いをするシステムだという説明を受けたあと、ウーロンハイとお刺身を頼むと、カウンターの隅で椅子に座ったおじいさんから話しかけられる。立ち飲み屋なのに椅子に座ることを許されているのは、きっと常連客なのだろう。
「コーヒーは好き?」「コーヒー? 好きですよ」「コーヒーわりを奢らせてよ」「え、あ、はい、ありがとうございます。それじゃあ、遠慮なくいただきます」お刺身にコーヒーは絶対に合わない。でも、常連客の気分を害するわけにもいかない。店員が慣れた様子でコーヒーわりの準備を始めていた。
黒糖と焼酎が入った随分と甘いコーヒーわりで、想像していた以上にお刺身と合わない。なかなかハードな時間になりそうだ……と覚悟を決めたところ、突然パフパフとラッパホーンが鳴って、店内にいるお客さんと乾杯をした。店選びを失敗したことに気がついたが、何事も経験だ。2、3杯飲み終わるまではこの店にいよう。
パフパフー! かんぱーい! 「コーヒーは好き?」「はい、好きです」「コーヒーわりを奢らせてよ」
パフパフー! かんぱーい! 「コーヒー飲む?」「え?」「コーヒーわりがね、あるの」
おじいさんは新しいお客さんが来るたびに話しかけていた。20代前半くらいの若い店員にも繰り返しお酒を奢っていて「今日は飲ませますね! 負けないっすよー!」と元気に対応していた(たぶん2杯目から水を注いでいた)。
お客さんや店員に話しかけず一人で飲みながらおじいさんの話に聞き耳を立てていると、どうやらかつて近くでコーヒー屋を営んでいたようで、お店に自身で淹れたコーヒーを持参しているようだ。おそらく椅子もおじいさんが持ってきている。こうやって自分の居場所を作っているのだろうな、と思った。
3、4杯飲んで、お会計を済ませる。覚悟を決めたわりにはいい時間を過ごせたなあと思いながら帰路に着く。電車の中で、GoogleMapからお店のメモを消した。